男女脳の差は完全否定?

 男女の脳の差については、うつ、自閉症などの出現率の差、どういう状態をパートナーがうまくいっているととらえるのか、ストレスに対する反応の差、認知機能テストの種類による差などが報告され、またその構造的な差について、小さい間は男の子のほうが海馬が大きく、思春期以降女性の方が海馬が大きくなる、扁桃体は男性のほうが大きい、脳梁が女性の方が太い、前頭葉、側頭葉などの皮質が女性の方が厚いなど報告されてきた。また、その使い方や神経接続の差についても、言語の処理方法に男女差がある、脳内の神経接続に差があり、女性は半球間の、男性は半球内の接続が強いなど報告されてきた(1)2)3)など)。
 しかし、リーセ・エリオットらが海馬の大きさに注目して、これまでの研究報告をメタ解析した研究によれば、実際の海馬の大きさは男性の方が大きく、脳の容積や頭蓋内容積で補正した海馬の大きさでは男女差が認められなかったそうです4)。もともと脳の大きさ自体、男性のほうが大きいし、個体差も大きいので、直接的に海馬の大きさを比較しても大きな意味はなく、個体差を消す補正を行ったうえで比較するのですが、この研究では、それでも男女差はなく、また年齢差、年齢と男女の交互作用も認められなかったそうです。ただしこの研究では6000件を超えるケースが検討されていますが、条件のマッチングを経て比較されたのは、補正されないデータで68組、補正データで36組であるので、今後のさらなる検討は必要かと思われます。
 それでもNIHなどのデータに基づき取りざたされてきた海馬の大きさの差を根拠とする議論は見直す必要がありますし、脳梁の太さについても否定されているので見直す必要があります。もっとも、4)のような神経接続などのエンドフェノタイプの差が否定されたわけではないので、たとえば、数年前のNHKスペシャル「女と男」などのロジックを全否定する必要はこれまたないでしょう。http://wired.jp/2015/11/05/male-female-brain-difference/はやや言い過ぎですかね。脳のMRIを見れば男女の予測が8割がたつくという研究もありますし。
1)Neurosci Biobehav Rev. 1997 Sep;21(5):581-601.
Sex differences in the human corpus callosum: myth or reality?
Bishop KM, Wahlsten D.
2)Neuropsychologia. 2008 Apr; 46(5): 1349–1362.
Sex Differences in Neural Processing of Language Among Children
Douglas D. Burman, Tali Bitan and James R. Booth
3)Proc Natl Acad Sci U S A. 2014 Jan 14;111(2):823-8. doi: 10.1073/pnas.1316909110. Epub 2013 Dec 2.
Sex differences in the structural connectome of the human brain.
Ingalhalikar M, Smith A, Parker D, Satterthwaite TD, Elliott MA, Ruparel K, Hakonarson H, Gur RE, Gur RC, Verma R.
4)The human hippocampus is not sexually-dimorphic: Meta-analysis of structural MRI volumes
Anh Tan, Wenli Ma, Amit Vira, Dhruv Marwha, Lise Eliot
NeuroImage Volume 124, Part A, 1 January 2016, Pages 350–366

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