コカイン、覚せい剤など精神刺激薬使用障害の危険要因と予後要因

 「コカイン、覚せい剤など精神刺激薬使用障害」が話題になっていますが、DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)によれば、その危険要因と予後要因は以下だそう。この辺り踏まえておきましょう。コメント足してあります。
 気質要因:双極性障害、統合失調症、反社会性パーソナリティ障害、および他の物質使用障害は、精神刺激薬使用障害の発症要因となる。またコカイン使用の再燃を促しやすい。⇒したがって、双極性障害、統合失調症、反社会性パーソナリティ障害へのケアなしに、12ステップなどパターン化された薬物使用障害対応のみを行うのは危険。また、衝動性とそれに類似したパーソナリティ傾向も治療転帰に影響を与えうる可能性が指摘されており、こうした傾向の40-50%は遺伝要因で説明されるので、こうした傾向を抑え込むより、どのように衝動性と付き合うか、衝動を流すかがだいじになる。
 環境要因:10代でのコカイン使用の予測因子として、胎児期におけるコカインへの暴露、出産後の親のコカイン使用、小児期に地域での暴力にさらされた経験があげられています。若年者、特に女性にとっての危険要因は、不安定な家庭環境、精神疾患があること、密売人や使用者との関連があげられるそう。精神障害へのケアはだいじ。
 精神障害へのケアが予防にもなり得る。福祉教育(社会障壁を下げる)との一体化が求められる。

 ちなみに「ギャンブリング障害」(いわゆるギャンブル等依存症)の危険要因、予後要因について、DSM-5では、
 気質要因:小児期や青年期早期から始まるギャンブリングは、ギャンブリング障害の割合を高める傾向にある(なお、日本のぱちんこでは開始年齢とギャンブリング障害に関連は認められなかった。ぱちんこは特異的なのかもしれない)。反社会性パーソナリティ障害、抑うつ障害、双極性障害、他の物質使用障害、特にアルコール使用障害と一体化しているように見えるそう。⇒こちらも背景となる精神障害へのケアがだいじ。
 遺伝要因と生理学的要因:遺伝率は50%程度で男女差はない中程度から重度のアルコール使用障害の人の第一度親族で頻度が高い(アルコール使用障害と共通する遺伝要因があるかもしれない)。
 経過の修飾因子:青年期から若年成人を含む多くの人が時間をかけて自分のギャンブリング障害の問題を解決していく(自然回復または高い流動性がある)。しかし、過去のギャンブリングの問題は、将来のギャンブリングの問題の強い予測因子である。⇒日本のぱちんこでは、過去ギャンブリング障害の疑いがあったが、直近一年間はない現在ぱちんこをしている人が50万人程度いる。この50万人は現状では適応できているし、将来もそうであるかもしれないが、将来のギャンブリング問題のリスク群であり、ケアが必要。
 
 物質使用障害とギャンブリング障害には共通点も多々あるが、異質な点も多く、「依存者」とひとくくりにした論調には注意が必要。

この記事へのコメント

高橋容市
2019年04月14日 21:34
記事とは関係ありませんが「マンガでわかる脳と心の科学」を読ませていただきました。大変参考になりました。
例えば、視細胞に桿体細胞、錐体細胞以外に第3の視細胞があるなどこれまで知りませんでした。
脳科学は好きで、これまでいくつか本を読んできましたが、どうしてもとけない疑問があり、上記の本を読んで質問させていただきたいと思いました。
本の116ページにエピソード記憶の固定化のメカニズムの説明がありますが、その刺激が伝わる経路として
「嗅内皮質 → 海馬 → 大脳皮質とありますが、癲癇の治療で海馬を切除したヘンリー・モレゾンさんは、
確かにエピソードを記憶できませんでしたが、普通に人と会話ができ、簡単な作業ですが仕事もしていたそうです。
ということは、海馬を経由しないで前頭前野に伝わる経路があるということでしょうか。
またその経路が存在する場合、海馬に送られる情報と前頭前野に送られる情報は全く同じものでしょうか。
よろしくお願いいたします。
高橋容市
2019年04月15日 10:02
早速回答ありがとうございます。
実はご紹介の資料は以前読んでいて、記憶の固定に関してはご紹介の資料で説明はつくと思いますが、それでも上記の疑問がとけていませんでした。

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