ギャンブル等依存症対策基本法でいう「ギャンブル等依存症」はどういうレベルのものと考えるべきか
毎年5月14日~20日はギャンブル等依存症問題啓発週間だが、「ギャンブル等依存症」の意味するものが相変わらずあいまいに思えるので、改めて考察してみた。
ギャンブル等依存症対策基本法には以下の記載がある。
・「ギャンブル等依存症」とは、ギャンブル等(法律の定めるところにより行われる公営競技、ぱちんこ屋に係る遊技その他の射幸行為をいう。第七条において同じ。)にのめり込むことにより日常生活又は社会生活に支障が生じている状態をいう。
・ギャンブル等依存症がギャンブル等依存症である者等及びその家族の日常生活又は社会生活に支障を生じさせるものであり、多重債務、貧困、虐待、自殺、犯罪等の重大な社会問題を生じさせていることに鑑み、・・・
明確な定義とは言えないが、その内容は、ほぼ以下の国際疾病分類(ICD‐11)でのギャンブリング障害(ギャンブル障害)の定義と重なる。
ギャンブリング障害は、持続的または反復的なギャンブリング行動(オンラインまたはオフライン)で、以下のパターンによって特徴づけられる。
・ギャンブリングをすることに対する制御の障害(例:開始、頻度、強度、持続時間、終了、状況)。
・ギャンブリングに没頭することへの優先順位が高まり、他の生活上の利益や日常の活動よりもギャンブリングが優先される。
・個人的、家庭的、社会的、学業的、職業的または他の重要な機能領域において著しい障害をもたらすほど十分に重篤な結果が生じているにもかかわらず、ギャンブリングが持続、またはエスカレートする。
ギャンブリング行動の様式は、持続的または一時的そして反復的かもしれない。ギャンブリング行動および他の特徴は、診断するために通常少なくとも12ヶ月の間にわたって明らかである。しかし、すべての診断要件が満たされ症状が重度であれば、必要な期間は短縮するかもしれない。
一方、ギャンブル等依存症対策推進基本計画【概要】Ⅰ ギャンブル等依存症問題の現状 で引用されている「国内の「ギャンブル等依存が疑われる者」の割合:成人の0.8% (平成29年度日本医療研究開発機構(AMED)調査結果)」は1987年に作られたSOGS(サウスオークス・ギャンブリング・スクリーン)の日本語版による調査結果に基づいており、SOGSでの「うたがわれる者」の判定基準は、DSM-III-R(精神障害の診断と統計マニュアル第3版改訂)に合わせている。この指標は使いやすいものの、借金の出所を示す尺度に大きな比重が置かれていること、時間枠が生涯期間となっていたため有障害率には寛解期にあるギャンブラーも含まれてしまう等の問題が指摘(Haynes, et. al., 1995)され、Lesieur と Blume(SOGS作成者)はSOGSを修正して過去1年という短期の時間枠を設けることを提案し、Sutinchfieldら(2002)は過去 1 年の時間枠を設けた SOGS に十分な信頼性と妥当性があることを確認している。ギャンブル等依存症対策推進基本計画はこの直近一年でのSOGS反応での結果を「ギャンブル等依存症」と捉えていると解釈できる。
ではDSMでのギャンブリング障害の基準はどうなっているのだろうか。現在のDSMはDSM-5だが、おおむねDSM-III-Rを引き継いでいるので、これを引用する。
A.臨床的に意味のある機能障害または苦痛を引き起こすに至る持続的かつ反復性の問題ギャンブリング行動で、その人が過去12か月間(原文は「in a 12-month period」なので、「ある12か月間」であることに注意)に以下のうち4つ(またはそれ以上)を示している。
①興奮を得たいがために、掛け金の額を増やしてギャンブリングをする欲求
②ギャンブリングをするのを中断したり、または中止したりすると落ち着かなくなる、またはいらだつ
③ギャンブリングをするのを制限する、減らす、または中止するなどの努力を繰り返し成功しなかったことがある
④しばしばギャンブリングに心を奪われている(例:次のギャンブリングの計画を立てること、ギャンブリングをするための金銭を得る方法を考えること、を絶えず考えている)
⑤苦痛の気分(例:無気力、罪悪感、不安、抑うつ)のときに、ギャンブリングをすることが多い
⑥ギャンブリングで金をすった後、別の日にそれを取り戻しに帰ってくることが多い(失った金を“深追いする”)
⑦ギャンブリングへののめり込みを隠すために、嘘をつく
⑧ギャンブリングのために、重要な人間関係、仕事、教育、または職業上の機会を危険にさらし、または失ったことがある
⑨ギャンブリングによって引き起こされた絶望的な経済状況を免れるために、他人に金を出してくれるよう頼む
B.そのギャンブリング行動は、躁病エピソードではうまく説明されない。
▶該当すれば特定せよ・・・挿話性(数か月は軽快する)、持続性(何年も当てはまる)
▶該当すれば特定せよ・・・寛解早期(3か月以上12か月未満基準を満たさない)、寛解持続(12か月以上基準を満たさない)
▶現在の重症度を特定せよ・・・軽度(4,5項目)、中等度(6,7項目)、重度(8,9項目)
「4つ」あてはまるという基準は、⑧⑨がなくてもあてはまる。われわれはDSM-5を使った臨床心理士等による構造化面接等を妥当性の基準として、パチンコ・パチスロ遊技障害尺度を作成、さらに6項目4件法の短縮版を作成している。それによれば、パチンコ・パチスロが気になって仕方ない、ストレスから逃れるために必要だ、が「どちらかといえば当てはまり」、使う金額増えた、やめると落ち着かなくなる、うそ、借金を頼む、は「ほとんどない」、でギャンブリング障害うたがいに相当する。
この関係がギャンブリング一般まで拡張できるのだとすれば、ギャンブル等依存症対策基本法でのギャンブル等依存症についての記載やICD-11から受ける印象とはだいぶ異なる。一つには自記式にせよ、構造化面接にせよ、DSM-5の前提となる「臨床的に意味のある機能障害または苦痛を引き起こすに至る・・・」が等閑視されがちで、SOGSによる判定も、ギャンブル等依存症対策基本法でのギャンブル等依存症についての記載やICD-11から受ける印象よりだいぶ軽度を拾っていることになる。
DSM‐5にせよ、SOGSにせよ、各項目の得点を単純に足しているが、最近のテスト理論では項目反応理論などを使って項目の軽重を使って項目の入れ替えなどを行う。われわれはパチンコ・パチスロ遊技障害尺度を項目反応理論で分析し、当たり前だが⑧⑨が重いことを確かめているので、DSM-5での〇×判断は、4件法などにするとその問題が余計に露見する。加えて、SOGSはDSM-5以上に過剰診断をしやすいとの指摘もあるので、ギャンブル等依存症基本法のいうギャンブル等依存症は、SOGSによるうたがいとはだいぶ異なる。
だから、ギャンブル等依存症うたがいがもっと少なくなるように判定せよ、というつもりはない。この乖離をしっかり押さえたうえで、そのように軽度または場合によっては無症状的な段階から、注意が必要、教育が必要というのが、世界の流れ。へんに、重度例や強迫的行動例と「うたがい数」が一致しているかのように見える説明や報道は控え、軽度からあるいは無症状に見える段階からの啓発をすべき。そのためにもギャンブル等依存症対策基本法や推進基本計画にはそういう補足を付けたほうがいい、という主張です。
このあたり、ゲーミング障害でも同様です。

ギャンブル等依存症対策基本法には以下の記載がある。
・「ギャンブル等依存症」とは、ギャンブル等(法律の定めるところにより行われる公営競技、ぱちんこ屋に係る遊技その他の射幸行為をいう。第七条において同じ。)にのめり込むことにより日常生活又は社会生活に支障が生じている状態をいう。
・ギャンブル等依存症がギャンブル等依存症である者等及びその家族の日常生活又は社会生活に支障を生じさせるものであり、多重債務、貧困、虐待、自殺、犯罪等の重大な社会問題を生じさせていることに鑑み、・・・
明確な定義とは言えないが、その内容は、ほぼ以下の国際疾病分類(ICD‐11)でのギャンブリング障害(ギャンブル障害)の定義と重なる。
ギャンブリング障害は、持続的または反復的なギャンブリング行動(オンラインまたはオフライン)で、以下のパターンによって特徴づけられる。
・ギャンブリングをすることに対する制御の障害(例:開始、頻度、強度、持続時間、終了、状況)。
・ギャンブリングに没頭することへの優先順位が高まり、他の生活上の利益や日常の活動よりもギャンブリングが優先される。
・個人的、家庭的、社会的、学業的、職業的または他の重要な機能領域において著しい障害をもたらすほど十分に重篤な結果が生じているにもかかわらず、ギャンブリングが持続、またはエスカレートする。
ギャンブリング行動の様式は、持続的または一時的そして反復的かもしれない。ギャンブリング行動および他の特徴は、診断するために通常少なくとも12ヶ月の間にわたって明らかである。しかし、すべての診断要件が満たされ症状が重度であれば、必要な期間は短縮するかもしれない。
一方、ギャンブル等依存症対策推進基本計画【概要】Ⅰ ギャンブル等依存症問題の現状 で引用されている「国内の「ギャンブル等依存が疑われる者」の割合:成人の0.8% (平成29年度日本医療研究開発機構(AMED)調査結果)」は1987年に作られたSOGS(サウスオークス・ギャンブリング・スクリーン)の日本語版による調査結果に基づいており、SOGSでの「うたがわれる者」の判定基準は、DSM-III-R(精神障害の診断と統計マニュアル第3版改訂)に合わせている。この指標は使いやすいものの、借金の出所を示す尺度に大きな比重が置かれていること、時間枠が生涯期間となっていたため有障害率には寛解期にあるギャンブラーも含まれてしまう等の問題が指摘(Haynes, et. al., 1995)され、Lesieur と Blume(SOGS作成者)はSOGSを修正して過去1年という短期の時間枠を設けることを提案し、Sutinchfieldら(2002)は過去 1 年の時間枠を設けた SOGS に十分な信頼性と妥当性があることを確認している。ギャンブル等依存症対策推進基本計画はこの直近一年でのSOGS反応での結果を「ギャンブル等依存症」と捉えていると解釈できる。
ではDSMでのギャンブリング障害の基準はどうなっているのだろうか。現在のDSMはDSM-5だが、おおむねDSM-III-Rを引き継いでいるので、これを引用する。
A.臨床的に意味のある機能障害または苦痛を引き起こすに至る持続的かつ反復性の問題ギャンブリング行動で、その人が過去12か月間(原文は「in a 12-month period」なので、「ある12か月間」であることに注意)に以下のうち4つ(またはそれ以上)を示している。
①興奮を得たいがために、掛け金の額を増やしてギャンブリングをする欲求
②ギャンブリングをするのを中断したり、または中止したりすると落ち着かなくなる、またはいらだつ
③ギャンブリングをするのを制限する、減らす、または中止するなどの努力を繰り返し成功しなかったことがある
④しばしばギャンブリングに心を奪われている(例:次のギャンブリングの計画を立てること、ギャンブリングをするための金銭を得る方法を考えること、を絶えず考えている)
⑤苦痛の気分(例:無気力、罪悪感、不安、抑うつ)のときに、ギャンブリングをすることが多い
⑥ギャンブリングで金をすった後、別の日にそれを取り戻しに帰ってくることが多い(失った金を“深追いする”)
⑦ギャンブリングへののめり込みを隠すために、嘘をつく
⑧ギャンブリングのために、重要な人間関係、仕事、教育、または職業上の機会を危険にさらし、または失ったことがある
⑨ギャンブリングによって引き起こされた絶望的な経済状況を免れるために、他人に金を出してくれるよう頼む
B.そのギャンブリング行動は、躁病エピソードではうまく説明されない。
▶該当すれば特定せよ・・・挿話性(数か月は軽快する)、持続性(何年も当てはまる)
▶該当すれば特定せよ・・・寛解早期(3か月以上12か月未満基準を満たさない)、寛解持続(12か月以上基準を満たさない)
▶現在の重症度を特定せよ・・・軽度(4,5項目)、中等度(6,7項目)、重度(8,9項目)
「4つ」あてはまるという基準は、⑧⑨がなくてもあてはまる。われわれはDSM-5を使った臨床心理士等による構造化面接等を妥当性の基準として、パチンコ・パチスロ遊技障害尺度を作成、さらに6項目4件法の短縮版を作成している。それによれば、パチンコ・パチスロが気になって仕方ない、ストレスから逃れるために必要だ、が「どちらかといえば当てはまり」、使う金額増えた、やめると落ち着かなくなる、うそ、借金を頼む、は「ほとんどない」、でギャンブリング障害うたがいに相当する。
この関係がギャンブリング一般まで拡張できるのだとすれば、ギャンブル等依存症対策基本法でのギャンブル等依存症についての記載やICD-11から受ける印象とはだいぶ異なる。一つには自記式にせよ、構造化面接にせよ、DSM-5の前提となる「臨床的に意味のある機能障害または苦痛を引き起こすに至る・・・」が等閑視されがちで、SOGSによる判定も、ギャンブル等依存症対策基本法でのギャンブル等依存症についての記載やICD-11から受ける印象よりだいぶ軽度を拾っていることになる。
DSM‐5にせよ、SOGSにせよ、各項目の得点を単純に足しているが、最近のテスト理論では項目反応理論などを使って項目の軽重を使って項目の入れ替えなどを行う。われわれはパチンコ・パチスロ遊技障害尺度を項目反応理論で分析し、当たり前だが⑧⑨が重いことを確かめているので、DSM-5での〇×判断は、4件法などにするとその問題が余計に露見する。加えて、SOGSはDSM-5以上に過剰診断をしやすいとの指摘もあるので、ギャンブル等依存症基本法のいうギャンブル等依存症は、SOGSによるうたがいとはだいぶ異なる。
だから、ギャンブル等依存症うたがいがもっと少なくなるように判定せよ、というつもりはない。この乖離をしっかり押さえたうえで、そのように軽度または場合によっては無症状的な段階から、注意が必要、教育が必要というのが、世界の流れ。へんに、重度例や強迫的行動例と「うたがい数」が一致しているかのように見える説明や報道は控え、軽度からあるいは無症状に見える段階からの啓発をすべき。そのためにもギャンブル等依存症対策基本法や推進基本計画にはそういう補足を付けたほうがいい、という主張です。
このあたり、ゲーミング障害でも同様です。
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