「まじめな人がうつになりやすい」という誤解

「うつになりやすい性格の特徴としては、まじめで・責任感が強く・完ぺき主義で・人からの評価も高く・道徳観も強い人などに多いといわれています。人からの依頼を断れずに、たくさんの仕事をかかえ込んでしまったり、柔軟に臨機応変な対応が出来ずに自分を追い込んでしまったり。結局は、ストレスをため込んでしまって、こころのバランスを崩してしまうこともあるようです。」などと言う記述がネットなどで散見する。
 千葉県のHPには以下の記述がある。
「従来からうつ病になりやすい性格には、「メランコリー親和型」が知られています。メランコリー親和型の人は、秩序、良心性、達成追及、自己鍛錬正確、綿密、凝り性、完璧主義、規範や秩序を愛する、人に気を遣うなどの長所がありますが、その反面、柔軟性に欠け、挫折に弱く、物事を一人で抱え込んでしまい周囲に助けを求めることができない、適度に「サボる」ことができない、などの弱点を有しています。メランコリー親和型の人に、精神的な負荷が持続的にかかった結果、うつ病を発症するのが、一つの典型的なパターンです。しかし近年、20~30代でうつ病を発症した人に、上記のメランコリー親和型と異なる病前性格が指摘されています。一部の精神科医が「新型うつ病」や「非定型うつ病」と呼ぶ彼らの病前性格には、漠然とした万能感、回避傾向、社会的役割を離れた自分自身への愛着、規範に対して「ストレス」であると抵抗する、元々仕事熱心でない、上下関係の社会への嫌悪感と回避など、メランコリー親和型とはかなり異なった特徴が認められます。」
 もっともらしい。まじめで良心的、完璧主義の人が従来からのうつになりやすい人だったが、あまりまじめでない人でのうつがでてきたというわけだ。
 メランコリー親和性は、1960年ころ、躁うつ病の内因性論、外因性論の桎梏から逃れるロジックとして119例の観察例からテレンバッハが論じた。日本では平澤が下田の執着気質を参考に軽症うつ病に「几帳面、仕事熱心、きちんとしておかなければ安心できない」という傾向を認めており、これとテレンバッハのメランコリー論を合わせるように、笠原・木村が1975年に「メランコリー親和型性格」を打ち出した。そして笠原・木村の言説はこの国で強い影響力を持ち、人口に膾炙し、今に至る。
 ここで注目すべきは、これらが観察例からの解釈であり、実証的な検証を経て生まれてきたロジックではない点である。まず第一にメランコリー親和性に信頼性がない。明確な測定尺度で定義され、たとえば繰り返し測定でそれが安定しているといった内容ではないので、極端に言えば、好き勝手な解釈が立てられる。第二に、信頼性、再現性、妥当性を持つ代表的な尺度であるビッグファイブ(NEOーPI-R)で調べると、「誠実性」(下位尺度は秩序、良心性、達成追及、自己鍛錬)は、メランコリー親和性がらみの観察とはまったく異なり、大うつ病とは負の相関を示す。つまり、「秩序」「良心性」「達成追及」「自己鍛錬」など、まじめで・責任感が強く・完ぺき主義で・人からの評価も高く・道徳観も強い人はむしろ大うつ病とは関連しない(Klein et al, 2011, Kotovo et al, 2010)。一方、神経症傾向(敵意、不安、抑うつ、自意識、衝動性、傷つきやすさ)は正の相関を示し、「新型うつ」はこの傾向が強調されているに過ぎない。
 こういうことは依存でもよく起こり、今も起こっている。起こし続けようとしているかに見える動きすらある。
 ↓は最近の報告。健常対照群385名、MDD(大うつ障害)群247名を対象とした研究。症状の重症度は、ハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)。うつ病の症状が軽くなった時点でBeck's Depression Inventoryを実施。性格質問票(NEO-PI-R)を記入する際に軽度であることを確認。
 その結果、健常対照群とMDD群の間には、性格に大きな違いが見られた。MDD群で神経症傾向が強く、外向性が低く、開放性と誠実性が低かった。協調性は重要な役割を示さなかった。うつ病のレベルがMDD-severe typeと同等である場合、同グループの男性よりも、女性で協調性と神経症傾向のレベルを高く、女性のうつ病を不均等に診断する可能性があるとのこと。
 なお、DSM-5(精神疾患の診断と統計のマニュアル第5版)では、大うつの病前性格としてあげられているのは「神経症傾向」のみである。ただし依存含め「神経症傾向」は多くの精神疾患の予測因子となるが、ここにはトートロジーの可能性があることは忘れてはならない。犯罪とかかわるのは、反抗挑戦性障害、素行症、反社会性パーソナリティだというロジックも同様。
Individual and Gender Differences in Personality Influence the Diagnosis of Major Depressive Disorder.
Nikolic S, Perunicic Mladenovic I, Vukovic O, Barišić J, Švrakić D, Milovanović S.
Psychiatr Danub. 2020 Spring;32(1):97-104. doi: 10.24869/psyd.2020.97.

うつの診断基準⇒https://kikusennin.seesaa.net/article/202106article_3.html

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