前頭前野と側頭頭頂接合部への刺激がだいじ?

電気刺激で脳の力がアップする
 SFのように聞こえるかもしれませんが、脳への電気刺激で様々な能力のアップを図る研究が十数年前から行われています。たとえば2011年には二大科学雑誌のひとつネイチャーで特集が組まれ、テレビゲームの成績向上、協調運動の促進、うつ病での気分改善、抑制力向上、ワーキングメモリやひらめき課題の成績向上が紹介されています。
 2013年には、計算が主である数学課題でも記憶の再生が主である数学課題でも、その課題へのチャレンジ中に前頭前野への電気刺激を行うことを5週間続けると、電気刺激を行わなかった場合に比べて2~5倍成績が向上、6か月後にも30~40%の成績差が続いたことが報告されています。

4Hzと60Hzで電気刺激
最近では、ボストン大のShrey Groverらが、150人の65歳以上を対象に、20分間の脳への電気刺激を4日連続で行っています。その結果、記憶力が少なくとも1か月間改善したことを報告しています。
この実験で、被験者は20単語のリストの読み上げを聴いた後、すぐに思い出すという課題を行います。その際に電気刺激を受けます。これを1日5回繰り返すことを4日間行っています。この電気刺激はこれまでの先行研究に基づき、ターゲットを前頭前野と下頭頂小葉とし、刺激周波数を4Hz(シータリズム)と60Hz(ガンマリズム)としています。 
そして、実験前、1日目、2日目、3日目、一か月後に20個の意味的にも音的にも無関係な単語リストを覚え、即座に思い出すテストを行います。そのうち一日は単語リストが30個になっています。

電気刺激で記憶力アップ
 テスト結果の分析のポイントは、単語リストの最初の方の思い出し方と後の方の思い出し方です。後の方は近い記憶、最初の方は少し遠い記憶になります。近い記憶に海馬や下頭頂小葉が、遠い記憶には前頭前野がかかわることが知られています。
 結果、下頭頂小葉に4 Hzの電気刺激を加えた場合にリストの最初の部分に含まれた単語の思い出しが改善され、前頭前野に60 Hzの電気刺激を与えた場合にはリストの最後の部分に含まれた単語の想起が改善されたそうです。特に認知機能がもともと低い場合の改善効果が大きかったそうです。

前頭前野と側頭頭頂接合部がだいじ
 20~30単語程度の記憶テストを使う研究では、近い記憶を短期記憶の一種としてワーキングメモリ、遠い記憶を長期記憶として扱っています。この研究も同様です。
しかし、週単位や月単位、場合によっては年単位にわたって保持される記憶を長期記憶とする考え方もあります。またワーキングメモリを単に短い記憶と考えるのではなく、ワーキング(作業)にも重点を置き、記憶しながら何かをする機能と見る立場があります。比較的長い期間の記憶保持を含むワーキングメモリ課題は脳トレ問題でよく使われ、前頭前野や側頭頭頂接合部がよく活性化します。下頭頂小葉は縁上回と角回からなりますが、その下部と上側頭回の後部からなるのが側頭頭頂接合部ですから、こういう刺激の意味も示しうるかもしれません。

Grover S, Wen W, Viswanathan V, Gill CT, Reinhart RMG. Long-lasting, dissociable improvements in working memory and long-term memory in older adults with repetitive neuromodulation. Nat Neurosci. 2022 Sep;25(9):1237-1246. doi: 10.1038/s41593-022-01132-3. Epub 2022 Aug 22. PMID: 35995877; PMCID: PMC10068908.

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