脳はどうやって成長するのか?学年があがるごとに、難しい問題も理解できるようになるのはどうしてか?

 脳はお母さんのおなかの中、妊娠3,4週目くらいに出来始めます。最初は神経管という管のようなものができ、これが脳と脊髄に分かれていきます。妊娠5週から20週くらいで脳は、大脳、小脳、間脳、脳幹などに分かれます。妊娠後期から生後にかけては、神経細胞どうしのつながりが強化されます。出産後の数年間で髄鞘といって、神経細胞から伸びてほかの神経細胞につながっていくコードのような部分がミエリンという膜に覆われ、電気信号の伝達スピードを一気に上げていきます。
 脳の重さでは生まれるころは350~400gくらい。大人で1200~1400グラムくらい。でも神経細胞の数は、生後すぐぐらいがピークで大人になっても変わりません。というかちょっと減ります。神経細胞の数は変わらないのに、なぜ重くなるかというと、神経細胞が成長していくからです。コードをたくさん伸ばしていっていろんなつながりをつくっていきます。それがたくさんできていくことで、新しい記憶が出来たり、いろんなスキルが身についたりしていきます。
 ここで、ちょっと補足しておきますが、脳の成長というのは、ただ単につながりが増えていくだけではありません。神経細胞はまずは無駄なつながりをたくさん作ります。それから必要なつながりを強化し、残していきます。他のつながりは刈り込んでいきます。こうして、効率的で省エネな、洗練された、いいつながりが残っていきます。自由エネルギー最小化なんていいますけど、ざっくり言えば、これが脳の成長です。いいつながりをつくっていくのが脳の成長ってことですね。いいですかね。

 では、後半の、学年が上がるごとに、難しい問題ができるようになっていくのはなぜか? についてお話ししていきます。いいですか?
 難しい問題ができるためには、その問題に関係する知識、数学だとπとかルートとかについての知識、その記憶が必要ですね。それから、問題の解き方、こんな順序でやっていけばとけるはずだというスキル、技術、これも記憶で技の記憶とかいいますが、これも必要です。
 こういう記憶は脳の中ではネットワーク、神経細胞同士のつながりとして出来上がっていきます。先ほどお話しした、つながりですね。勉強するとか生きるってことは、脳の中にいいつながりを作っていくってことでもあるんですね。で、同じようなことを学習していくと、それに関連するつながりがたくさんできて、あたらしいつながりができやすくなっていきます。たとえば平安時代に詳しくなると、平安時代のことは余計に覚えやすくなったりする。数学の問題をたくさん解くとひらめきやすくなったりします。たくさん勉強してもなかなか実力が上がらない時期があるけれど、勉強の量がかさなると急につながりが見えてくる。こういうのは脳の中に神経細胞のネットワークが豊かにでき、新しいつながりができやすくなるからなのね。
 もうひとつ、学校で勉強することや生きているだけで、考えたり、判断したりする時の基礎となる力が伸びます。ワーキングメモリはその力の代表で、記憶や情報を一時的に保持しながら、あれこれ考えたり、判断したり、ちょっと置いておいて後で考えたりする脳の働き。
 そうだね。たとえば、639、おぼえてくれる? もう一度言うよ、639。じゃ、逆から言ってみて。。。
 いま、みなさんは、639を覚えて、つまりメモリーして、逆から読みに行くという作業、ワーキングをしました。これがワーキングメモリ。記憶して作業する、脳にメモしておいてあれこれ考える。こういう力が難しい問題を解くのに必要なのはわかるよね。あれこうして、つぎはこうして、でここはいったんおいておいて、こっちやって。。。こういう頭の働かせ方ができないと難しい問題なんて理解できないよね。
 で、2022年に6567人の9~11歳についてワーキングメモリの力を調べた研究が報告されています。その研究によるとワーキングメモリの力は、歳をとることでも伸びるし、教育を受けることでも伸びることがわかりました。だから、学年が上がるごとに、歳もとるし、教育期間も長くなってワーキングメモリの力が伸びていくのね。難しい頭の使い方もできるようになるわけね。2年間の学習は、頭の働きに関係する遺伝子の影響や、親の社会経済的地位による差も上回るそうなので、脳の成長にとって学校って、だいじだね。

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