運動が効くメカニズムメモ

natureダイジェストより

毎週450分間の早歩きは、全く運動しない場合よりも約4.5年長い寿命と関連
Moore, S. C. et al. PLoS Med. 9, e1001335 (2012).
ラットを使った研究で、運動が臓器や組織や遺伝子発現にどのような変化を誘発し、これらの変化が性別によってどのように変わってくるか
MoTrPAC Study Group. Nature 629, 174–183 (2024).
Many, G. M. et al. Nature Metab. https://doi.org/10.1038/s42255-023-00959-9 (2024).
Vetr, N. G. et al. Nature Commun. https://doi.org/10.1038/s41467-024-45966-w (2024).
IL-6が運動中に収縮する筋肉によって分泌される、エクサカイン
高濃度のIL-6は、どのように誘導されたかによって、有益にも有害にもなる。安静時の過剰なIL-6には炎症作用があり、肥満や2型糖尿病の特徴であるインスリン抵抗性を引き起こすと、Klarlund Pedersenは言う。けれども運動時には、IL-6は、IL-10やIL-1raといった炎症を抑えるタイプのインターロイキンを活性化し、炎症とその有害な影響を抑制する。
Steensberg, A., van Hall, G., Osada, T., Sacchetti, M., Saltin, B. & Klarlund Pedersen, B. J. Physiol. 529, 237–242 (2000).

運動は細胞にストレスを与えるが、ある種の分子は、この有害作用を相殺するのだ。細胞内にエネルギーを供給する発電所であるミトコンドリアが運動中にエネルギー生産量を増やすと、活性酸素種(ROS)と呼ばれる副産物も多く生成する。ROSが過剰に生成すると、タンパク質や脂質やDNAを損傷してしまうことがある。けれどもROSには、運動中に多くの細胞保護過程を始動させることで有毒な影響を相殺し、細胞の防御を強化する側面もある。

骨格筋の重要な遺伝子を調節するタンパク質PGC-1αと、細胞保護作用のある抗酸化酵素をコードする遺伝子を活性化させるタンパク質NRF2は、細胞の維持と修復における主役級の分子である。

2020年、Snyderらのチームは、40~75歳の36人の被験者から、トレッドミルで走る前、走っている間、走った後のさまざまな時間間隔で血液試料を採取した。マルチオミクスプロファイリングを用いて1万7000以上の分子を測定したところ、そのうちの半数以上で運動後に有意な変化が見られた
Contrepolis, K. et al. Cell 181, 1112–1130 (2020).

運動により、エネルギー代謝や酸化ストレスや炎症などの生物学的過程が絶妙に組織化された形で始まることも明らかになった。

2022年の研究では、運動に反応して21の細胞タイプでそれぞれ異なる発現をする200種類以上のタンパク質が同定された
Wei, W. et al. Cell Metab. 35, 1261–1279 (2023).

Longらの知見は、運動後のマウスの肝細胞から、代謝を高めることで知られるカルボキシルエステラーゼという酵素が数種類分泌されることも明らかにした。研究チームが、代謝を促進するこれらの酵素が肝臓で高発現するようにマウスを遺伝子操作したところ、脂肪分の多い餌を与え続けても太ることはなかった。このマウスたちは、トレッドミルで走るときの持久力も高かった。

ナッシュ大学(オーストラリア・メルボルン)の運動生理学者であるMark Febbraioは、細胞外小胞(EV)は、エクサカインと共に臓器と組織のやりとりを支えるメカニズムの1つになっているかもしれないと言う。EVは、生体物質を運ぶナノサイズの泡状の構造物である。Febbraioらは2018年に、11人の健康な男性の大腿動脈にチューブを挿入し、ペースを上げながら1時間エクササイズバイクで運動してもらう前と後に採血を行った。その結果、運動中と運動後に、EVを構成したりEVによって運ばれたりする300種類以上のタンパク質の濃度が急上昇することが確認された
Whitham, M. et al. Cell Metab. 27, 237–251 (2018).

エストロゲン関連受容体は、特に運動中に、心臓や骨格筋などのエネルギーを大量に消費する組織において、重要な代謝経路を誘導することが知られている。研究チームがSLU-PP-332をマウスに投与したところ、未投与のマウスに比べて70%長い時間、45%長い距離を走ることができた。その6カ月後には、同じくBurrisが主導した別の研究で、SLU-PP-332を投与された肥満マウスは、同じ量の餌を食べ、普通以上の運動をしなかったにもかかわらず、SLU-PP-332を投与されなかったマウスに比べて体重が減少し、脂肪の増加も少ないことが明らかになった
Billon, C. et al. ACS Chem. Biol. 18, 756–771 (2023).
Billon, C. et al. J. Pharmacol. Exp. Ther. 388, 232–240 (2024).

Bar-Sagiらは2022年に、膵がんのマウスに週5日、30分の有酸素運動をさせたところ、がん細胞やウイルス感染細胞を破壊するCD8 T細胞の濃度が上昇したことを発見した
これらのキラー細胞は、運動中に筋肉から分泌されるエクサカインIL-15の受容体を発現している。Bar-Sagiらは、CD8 T細胞がIL-15と結合すると、膵臓の腫瘍に対してより強力な免疫応答が起こることを発見した。この効果により、運動した膵がんマウスの生存期間は、対照群の膵がんマウスより約40%長くなった。
Kurz, E. et al. Cancer Cell 40, 720–737 (2022).

世界保健機関(WHO)が推奨する成人の1週間の運動量は、早歩きなどの中強度運動なら150~300分以上、ジョギングなどの高強度運動なら75~150分である。


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