某県の道義的責任とかなんとか

関西のワイド番組の中で 脳科学者の中野信子氏が「メンタルが強いというか、道義を感じる領域がないと思う」と指摘したことがネットで話題になっていました。
自分の「負け」を認められないタイプ…という指摘のようですが
https://news.yahoo.co.jp/articles/f5a172047a1450e67572e45c36de3d6e69736752
そもそも、この「道義を感じる領域」というのはいったい脳活動のどういうことを指すのでしょうか。事態や他人に対する「責任」とか「負い目」というものはむしろ組織とか社会的な活動の産物という気がしています。
(動物は、悪かったなぁ…とか マズイなぁ…とか感じるのでしょうか?)
脳にはそういう領域があるものなのか、ヒトに特有のものなのかも含めて 気になっているところです。
現在の斉藤知事が置かれている四面楚歌の行方とは別に「責任の脳科学」のようなテーマで お伺いできれば光栄です。

個別具体的な人について診断的な話をすることや、脳がどうこう言うことは、遠隔診断の一種で倫理的にしてはいけないことになっています。むかしは変わった犯罪などが出てくると精神科医などが出てきて解説したものでしたが、面接もせず診断すること、それを話す守秘義務違反として医師の倫理規定に反するということで慎むようになっています。かわって犯罪心理学の人とか臨床心理の人、脳科学系の人が解説することがありますが、一般論を越えるとやはり倫理的な問題があります。とくに、その問題がキャラや人格の問題なら、それを批判してはいけない、行動のみを批判せよ、というのが近代法の理念ですし。これ延長すると、発達障害的傾向やそのスペクトラムへの差別にもつながりかねませんし。
今日のテーマが道義とか、倫理ということなので、一応。

それはさておき、道徳的判断や倫理的判断を行うときの脳活動については調べられており、道徳神経科学(moral neuroscience)、神経倫理学などと呼ばれています。例えばトロッコ問題。そのままトロッコが進むと5人が犠牲になる状況で、切り換えレバーを引けばコースが変わりそちらの線路にいる1人だけが犠牲になる。5人を助けることができるという場面でどういう選択をするのか、という課題です。
みなさんなら、どうしますか。レバー引きますか?
・・・・そうですね。一般的には70~90%がレバーを引きます。知り合いや親族がどちらかに含まれていれば、そちらを回避する傾向が強まります。レバーではなく、一人を刺し殺せば5人が助かる、という条件では躊躇する人が増えます。実験条件でのアンケートではなく、リアルならまた判断は変わるでしょう。
いずれにしても、こういう時に活動を高める脳部位は、
前頭前野 (Prefrontal Cortex, PFC): 特に内側前頭前野 (medial PFC) は、道徳的判断や倫理的意思決定に関わるとされています。社会的規範やルールを理解し、それに基づいて行動を選択する際に活性化します。この理解が異なれば異なる判断になります。
楔前部 (Precuneus): 道徳的判断や他者の視点を考慮する際に関与します。共感や他者の意図を理解する能力とも関連しています。轢かれる一人の心を強く想像すると、個々の活動が強まり、レバー引きを躊躇します。だれを思い浮かべるかで判断は変わるわけですね。
帯状皮質 (Cingulate Cortex): 特に前帯状皮質 (anterior cingulate cortex, ACC) は、倫理的な葛藤や判断が求められる場面で活性化します。この領域は、感情や意思決定の調整に関与しています。感情的な矛盾が生じるとここは強く活動します。ここは思春期以降発達していきます。
島皮質 (Insula): 感情的な反応や共感の感情に関与しており、特に他者の痛みや苦しみを感じるときに活性化します。ここも思春期以降再発達します。
扁桃体 (Amygdala): 強い感情反応、特に恐怖や怒りなど、倫理的に複雑な状況での感情的な反応に関与しています。批判した人自体への怒りではここが強く反応し、それを正当化するロジックを見つけ、前頭前野などで強化していきます。
腹側被蓋野(VTA):快感にかかわる。他者批判を正義と決めてしまえばここが活性化します。集団的に誰かをたたくときに活性化するのはここで、怒りと、この快感に基づいて抗議の電話をしたり、SNSでたたきまくったりします。

ですから、兵庫のような事案を見ていると、知事のパワハラを暴いた人の脳でも、それを否定した知事側の人の脳でも、それを批判するわれわれの脳でも、何かを正義と決める、似たような脳活動がおきているんだろうなあ、と一般的には思います。
そして、今の社会で、何を正義とするのかの一般的な落としどころを作っていくには、事例の積み重ねとその学習しかありません。道徳的正しさは時代によって変わる、社会や組織が生み出す産物で、変わりますから。だから、パワハラ相談AIを作る時は、まあまあの倫理判断をできるように事例学習を繰り返します。もしくはルールらしいものを事前に入れます。その内容はしばらくすれば変わるはずです。

宣伝的なことを言うと、いまわれわれは、パワハラ相談、これはされた人の相談だけでなく、しそうな人、してしまっているかもしれない人の相談も含むパワハラ相談ですが、それをするチャットボット、生成AIで作っています。
なかなか、組織での相談窓口がうまく機能しないので、こういうものでおぎなっていくのがいいと思っています。

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