老化細胞メモ

老化細胞（senescent cells）は、細胞が分裂能力を失い、静止状態に陥った状態の細胞を指します。老化細胞は、通常、損傷やストレスに応じて細胞が自己防御の一環としてこの状態になることで形成されます。
老化関連分泌現象（SASP: Senescence-Associated Secretory Phenotype）老化細胞は、サイトカイン、成長因子、酵素などの物質を分泌し、周囲の細胞や組織に影響を与えます。この現象は、炎症反応を引き起こすほか、周辺の細胞の老化を促進する場合もあります。

老化細胞には良いタイプと悪いタイプがあって、p16は傷の修復を助け、肌をきれいにしたりするのに対して、p21は傷の修復を邪魔してしまう
p16高発現老化細胞は創傷治癒において有益な機能を発揮することが報告されている。 ここでは、ゼニウム空間トランスクリプトミクスを用いて、創傷時に誘導され、炎症性プロフィールを持つp21高発現老化細胞集団を同定した。 p21高発現細胞を除去すると創傷の閉鎖が促進され、部分的にNF-κB阻害が介在することを見出し、組織リモデリングにおける老化の多面的機能についての理解を深めた。
Gasek, N.S., Yan, P., Zhu, J. et al. Clearance of p21 highly expressing senescent cells accelerates cutaneous wound healing. Nat Aging (2024). https://doi.org/10.1038/s43587-024-00755-4

セノリティクス（Senolytics）
ダサチニブ（Dasatinib）抗がん剤として使われている分子。間葉系細胞（骨や軟骨などに関連する細胞）で老化細胞を除去する効果が確認されています。
クルクミン類似体（フェイセチン）フェイセチン（Fisetin）は、フルーツや野菜に含まれるフラボノイド。マウス実験では、老化細胞の除去や健康寿命の延長が示されています。
ナビトクロクス（Navitoclax）がん治療薬としても研究されている分子。老化細胞の抗アポトーシス特性を標的とし、効果的に除去することが可能です。

マウス実験:老化細胞を除去するセノリティクスを投与したマウスでは、健康寿命が20-30%延長。
疾患の進行が抑制され、運動機能の改善が確認されています。
ヒトへの応用:初期臨床試験で、関節炎や肺線維症、糖尿病などの改善効果が報告されています。副作用のリスクを最小限にするための投与量や投与スケジュールが研究中。

老化細胞を標的とした免疫療法
CAR-T細胞療法:がん治療で使用されるCAR-T細胞を老化細胞にも応用。老化細胞表面の特定の分子を標的とするように改変されたCAR-T細胞が開発されています。
免疫ブースター:老化細胞を免疫系が自然に排除できるように、免疫反応を強化する薬剤の研究。

SASPを抑制する治療法
老化細胞そのものを除去するのではなく、老化関連分泌現象（SASP）を抑えることで、老化細胞が引き起こす慢性炎症や病気を防ぐ方法です。
研究例JAK阻害剤（Tofacitinib など）:SASPの抑制に効果があり、炎症反応を抑える作用を持つ。関節リウマチや炎症性疾患の治療薬としても使用されています。
mTOR阻害剤（ラパマイシン）:老化細胞の活性化を抑制し、SASPの産生を低下させる効果が確認されています。動物実験では寿命延長や健康維持効果が認められています。

テロメアの再生療法
テロメア（染色体の末端部分）が短縮すると、細胞老化が誘導されます。これを回復させることで細胞機能を改善する研究も進んでいます。研究例テロメラーゼ活性化剤:テロメラーゼという酵素を活性化することで、短縮したテロメアを延長。マウス実験で老化の兆候が軽減され、寿命延長が確認されています。遺伝子治療:テロメラーゼ遺伝子を体内に導入することでテロメアを修復する方法。

老化細胞の蓄積を防ぐための予防的アプローチも重要です。
運動
定期的な運動は、老化細胞の除去を助ける免疫細胞（NK細胞など）の活性化に寄与。運動による炎症抑制効果も期待されています。
食事
抗酸化作用のある食品（ビタミンC、E、ポリフェノール）を多く含む食事が、酸化ストレスを軽減。
断食（カロリー制限）や断続的断食（Intermittent Fasting）は、老化細胞の形成を抑える可能性が示唆されています。
ストレス管理
慢性的なストレスは老化細胞の形成を促進するため、ストレス軽減が重要。