末期がんで血液型が変わる?

 結論から言うと、末期のがん患者さんで血液型が変わるという現象はごくまれに起きますが、これは、実際には「血液型が変わる」のではなく、血液型の検査結果が一時的に変わるにすぎません。がんなどの影響で赤血球に現れる「抗原」(これが血液型を決めているんですが)などが変化して、血液型はそのままですが、検査結果が一時的に変わってしまうことがおきます。
 有名なのが獲得B現象と言われるもので、消化器系のがんでおきます。腸内細菌が変化してデアセチラーゼという酵素を出し、これがB型を示すB抗原を誘導します。結果、A型がAB型、O型がB型と見誤れたりします。
 ところで、血液型がどう決まるか、どう調べるか、知っていますか?
 血液型にはいろんな分類法があります。赤血球では、ABO式、RH式、MN式など、白血球はHLA型などです。みやびさんの質問は、ABO式(ルイス式)の話でしょうから、ABO式の血液型がどう決まるか、どう調べるか、お話しします。
 赤血球の表面には、ブドウ糖やガラクトース(乳糖の成分)などの糖が鎖のように結びついた糖鎖がたくさんくっついています。この基本的な形がH抗原と呼ばれます。抗原というのは何かの反応を起こすもとになる物質、と考えてください。たとえば、スギ花粉とか、コロナウィルスのスパイクたんぱくとかも抗原です。
 さて、H抗原にA型抗原、具体的にはN-アセチルガラクトサミン(GalNAc)が付加すると血液型はA型になります。一方、ガラクトース(Gal)が付加するとB型抗原になりB型になります。AB型では、A型抗原とB型抗原の両方を持っています。O型はH抗原のまま、つまりA抗原も、B抗原もなくゼロ型です。
 血液型の検査では、A型に反応し凝集する抗A抗体、B型で凝集する抗B抗体を使って判定します。ちなみに、A型の人は赤血球にA抗原、血漿中に抗B抗体があるので、BやAB型の血液を輸血するとB抗原と抗B抗体が反応して凝集してしまいます。
 ちょっと横道にそれますが、赤血球が老化するとこの糖鎖の構造が変化して、マクロファージという細胞のお掃除屋さんに異常細胞だとみなされやすくなって、脾臓などで壊されます。この時、赤血球の血液型もわからなくなります。
 さて、がんが進行すると、腫瘍やがん細胞が体内で異常な抗原(血液型を決める物質)を分泌したり、既存の抗原を減少させたりすることがあります。これにより、血液型の抗原が弱くなり、検査では異なる血液型として誤認されることがあります。特に白血病やリンパ腫など、血液や骨髄に影響を与えるがんでは、正常な血液細胞の生成が阻害され、血液型の抗原を持たない異常な血液細胞が増えることがあります。このため、血液型があいまいに見えたり、異なる血液型に見えたりすることがあります。
 また、末期がんの治療では、輸血や細胞療法が行われることが多く、これにより一時的に血液の抗原のバランスが変わることもあります。特に大量の輸血が行われると、受け入れた血液成分が本人の抗原と混ざり、誤って異なる血液型として検出される可能性もあります。
 というわけで、実際には「血液型そのものが変わる」というよりも、がんの進行や治療の影響で一時的に血液型の検査結果が異なって見えてしまうんですね。

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