マイカーのエンジンをかける時、いつもは見なくてもスタートスイッチに手が伸びるのに、たまに「あれ?ボタンは右にあったっけ?左にあったっけ?」とわからなくなる。

・パソコンを打っていて、いつもはブラインドで打てるのに、失敗するとキーボードを見ないと正しく打てなくなる
・マイカーのエンジンをかける時、いつもは見なくてもスタートスイッチに手が伸びるのに、たまに「あれ?ボタンは右にあったっけ?左にあったっけ?」とわからなくなる。
こういうことはなぜ起きるのですか?

◆ どうしてこういうことが起きるのか?
記憶には種類がある
普通の記憶(エピソード記憶や知識:言葉に表せる)は海馬に強く依存する。「いわゆる記憶」
一方、ブラインドタッチや車のスタートボタンを押す動作のような「技の記憶(手続き記憶・運動記憶)」は大脳基底核や小脳が主に担当しており、海馬とは別のシステム。どういう順でどうしていくかの無意識的記憶、「技の記憶」

いわゆる記憶は一撃または繰り返しで覚える
技の記憶は一撃で覚えることはほぼなく繰り返しで強化される
最初はぎこちないが(運動野依存)、何度も繰り返すことで半自動化され、ほとんど意識せずに動作できるようになる。この時、大脳基底核や小脳に内部モデルが出来上がる。
そのため一度身につくと忘れにくいし、意識しないでいい分、スムーズで滑らかに操作できる。しかし、「すっとできないとき」「どうやってやっているか」を意識して思い出そうとすると混乱しやすい。
無意識の動作は意識するとぎこちなくなる

通常はスムーズで速いが、意識して「正しくやらなきゃ」と考えると、本来の無意識ルートを外れてしまい、うまく動かなくなる、動かせなくなる(「思い出そう」としてしまうと却ってできなくなる)。

身体や状況のちょっとした変化で感覚がずれる
例えば疲れや緊張、姿勢・重心の変化、手の湿り具合などが、いつもの筋感覚(プロプリオセプション)を狂わせる。体操選手みたいな・・・
加齢も同様。ちょっとハンドルが堅くなった、場所を変えた、車が違う、程度で、あれ、急にできない、と混乱。
うまくできない理由が自分でわからない

技の記憶は意識下にないため、「なぜ失敗するのかわからない」状態になりやすい。
この「わからなさ」が不安や焦りを呼び、さらに混乱を招く悪循環になる。

◆ イップスとの違い(神経科学的には)
神経科学ではイップスはもっと神経回路レベルの問題として扱われることが多い
例えばピアニストが指を集中的に鍛えると、脳の運動野などで、たとえば、人差し指と中指の領域が拡大・重なり、神経信号が誤ってつながりやすくなる。
その結果、意図していない指が動いてしまう(局所性ジストニア=フォーカルジストニア)。

日常的な「混乱」はイップスとは別物
イップス(神経学的)ほど構造的な問題ではなく、単にいつもの無意識パターンが乱れただけ。
ただし、一般にはこの程度の混乱でも「イップス」と表現されることがある。

◆ さらに知っておくと役立つこと
注意の割り当てが変わると失敗しやすい
普段は自動運転のようにできる作業でも、疲れていたり、周囲に気を取られていたりすると、注意の配分がズレて無意識処理が乱れる。

緊張やプレッシャーで自動化から外れる
「絶対に失敗したくない」「間違えないように」と強く意識すると、かえって意識的に動かそうとして本来のスムーズさを失いやすい。



この記事へのコメント